静岡県立大学 食品栄養科学部 栄養化学研究室

LABORATORY OF NUTRITIONAL BIOCHEMISTRY,
SCHOOL OF FOOD AND NUTRITIONAL SCIENCES,
UNIVERSITY OF SHIZUOKA

研 究

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運動トレーニングによる骨格筋中リン脂質分子種の変化へのPGC-1αの関与

脂質は細胞膜の主要な構成因子として生命を包み、外界との境界を定めています。特に真核生物はリン脂質からなる脂質二重膜によって区画化されたオルガネラを発達させることで、複雑な生命活動を支える機能を巧妙に発現しています。リン脂質は、グリセロール骨格のsn-1位には飽和脂肪酸やモノ不飽和脂肪酸が、sn-2位には高度不飽和脂肪酸が多く結合し、組織や細胞に特徴的な組み合わせとなって存在しています。そのためリン脂質に含まれる脂肪酸組成の視点から各組織の機能調節を解明することは極めて重要です。骨格筋においても筋細胞膜リン脂質中の脂肪酸組成がインスリン感受性に影響を及ぼすことが報告されており、骨格筋細胞膜のリン脂質分子種と骨格筋機能維持には何らかの関連性があると考えられています。一方、骨格筋は遅筋と速筋に大別され、筋線維タイプを変化させることで様々な外部環境変化に適応しており、このうち持久的運動トレーニングは骨格筋の遅筋化を促進し、糖・脂質代謝、筋持久力、ストレス耐性などにおいて高い優位性をもたらします。この優位性にも適応反応により変化したリン脂質分子が貢献していると想定され、どのようなリン脂質分子種を変化させることが骨格筋機能の維持促進に重要なのかが判明すれば、骨格筋機能維持に有用な新規方策の開発に発展させることが可能となります。しかし、現在までに、骨格筋の筋線維変化と骨格筋細胞膜リン脂質組成との関連性や、どのような機序で骨格筋細胞膜リン脂質分子種が変化しているのか、その変化が骨格筋機能にどのような影響を及ぼしているのかは明らかにされていません。私たちはこれまでに、転写共役因子peroxisome proliferators- activated receptor-γ co-activator-1α (PGC-1α)を骨格筋特異的に過剰発現させた「筋PGC-1αマウス」を作製し、骨格筋の遅筋化と持久力の向上を認めています。

本研究では骨格筋の遅筋特性獲得とともに生じる脂質分子種変化において、PGC-1αが果たす役割を明らかにすることを目的とし、筋PGC-1αマウスにおける脂質分子種の変化について検討しました。

その結果、PGC-1αが骨格筋の脂質分子種のうち、特にグリセロリン脂質の分子種に変化を引き起こすこと、運動トレーニングにより多価不飽和脂肪酸を有するホスファチジルコリン(PC)およびホスファチジルエタノールアミン(PE)がPGC-1α依存的に増加することがわかりました(J. Lipid Res. 2015)。

今後、なぜPGC-1αがこのような変化を引き起こすのか、この変化が生理的にどのような意味を持つのかを明らかにしていきたいと考えています。

ASBMB Today 2016.2に取り上げられた記事

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