静岡県立大学 食品栄養科学部 栄養化学研究室

LABORATORY OF NUTRITIONAL BIOCHEMISTRY,
SCHOOL OF FOOD AND NUTRITIONAL SCIENCES,
UNIVERSITY OF SHIZUOKA

研 究

トップページ > 研 究 > アシル基転移酵素LPGAT1/LPLAT7による骨格筋の筋線維特異的なリン脂質クオリティー制御機構の解明

骨格筋を構成するリン脂質が筋線維タイプごとに異なるメカニズムを明らかにしました。

骨格筋は収縮速度の違う速筋タイプと遅筋タイプの筋線維によって構成されます。グリセロリン脂質はグリセロール骨格に2つの脂肪酸が結合した構造を有する脂質分子であり、結合している脂肪酸の種類 (炭素数、二重結合の数) やその組み合わせによって生体内には数多くの分子種が存在します。グリセロリン脂質は細胞膜やオルガネラ膜を形成しており、結合している脂肪酸の違いが膜の機能変化を介して細胞機能に影響することが知られています。

本研究では、骨格筋に存在するリン脂質分子種が筋線維タイプごとに異なり、速筋では1-palmitoyl型ホスファチジルコリン (16:0-PC) が約80%であるのに対し、遅筋では16:0-PCが60%である代わりに、1-stearoyl型PC (18:0-PC) が30%存在することを見出しました(図1、図2)。ホスファチジルエタノールアミン (PE) でも遅筋で18:0-PEが多く含まれていました。グリセロリン脂質に結合する脂肪酸の種類はアシル基転移酵素 (LPLAT) によって決定されることが知られていますが、遅筋線維で18:0-PCや18:0-PEが多く存在するのにLPGAT1/LPLAT7と呼ばれるLPLATが関与することを発見しました(図3)。骨格筋のLPGAT1/LPLAT7を欠損させると、骨格筋中の18:0-PC、18:0-PE量に加えて18:0-ホスファチジルセリン (PS)量が減少しました。その一方で16:0-PC、16:0-PE、16:0-PS量が増加したことから、LPGAT1/LPLAT7はPC、PE、PSに結合する脂肪酸を16:0から18:0に入れ替えていることが判明しました。

骨格筋は運動トレーニングによってその性質を大きく変化させることが知られています。特に、持久的な運動トレーニングは骨格筋の筋線維タイプを遅筋化し、筋持久力の向上に寄与します。今回発見した遅筋特有のリン脂質の生成機序の解明は、運動トレーニングによって骨格筋が持久力を向上させるメカニズムの全貌解明に役立つことが期待されます。また、骨格筋の遅筋化は生活習慣病の予防にも貢献することが報告されており、運動が生活習慣病の発症を予防する機序の解明に寄与することが考えられます。

この研究成果は、2023年5月20日に、Journal of Biological Chemistry誌にオンライン掲載されました。 今後は、骨格筋のLPGAT1/LPLAT7を欠損させると筋持久力や運動によるトレーニング効果や生活習慣病予防効果にどのように影響するのかを検討していく予定です。

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